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大森簡易裁判所 昭和42年(手ハ)99号 判決 1968年6月06日

原告 千代田三洋冷暖房株式会社

右代表者代表取締役 蟹田末博

右訴訟代理人 松村精起

被告 河本正樹

主文

被告は原告に対し金八一、〇七八円およびこれに対する昭和四二年一二月二九日より完済に至るまで年六分の割合による金員(但し別紙目録記載の6ないし21の金員については当該手形の呈示を要する)を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一、当事者双方の求める裁判

(一)  原告

被告は原告に対し金八一、〇七八円およびこれに対する昭和四二年一二月二九日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

旨の判決ならびに仮執行の宣言。

(二)  被告

原告の請求を棄却する旨の判決。

二、原告の請求の原因

(一)  原告は被告振出しの別紙目録記載の1ないし21の約束手形二一通を所持し、右1の手形を満期に支払場所に呈示して手形金四、〇〇〇円の支払いを求めたところ、取引なしとの理由により支払いを拒絶された。右2ないし21の各手形については同年一二月二六日本訴を提起した後昭和四三年二月一七日被告の住所において呈示し、被告に対し昭和四二年一二月二五日以降各満期までの銀行割引率による公定歩合の日歩金一銭五厘の割合による中間利息を差引いた別紙目録請求金額欄各記載の合計金七七、〇七八円の支払いを求めたがその支払いを拒絶された。

(二)  よって原告は被告に対し前記1ないし21の合計金八一、〇七八円およびこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四二年一二月二九日より完済に至るまで商法所定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三、被告の認否

原告の右請求原因事実はすべて認める。

理由

原告の請求原因事実は被告において全部認めて争わないところである。

ところで別紙目録記載の6ないし21の各約束手形について本件口頭弁論終結当時いずれも満期未到来のものであるから期限前の請求であり為替手形の場合と異なり手形法に何らの定めがないのでその適否については争いのあるところである。

しかし為替手形金請求の場合との均衡上から約束手形金請求の場合も手形債務者が破産または倒産等により支払停止の場合等満期において支払いを得る見込みがないと認められるような一定の条件のもとに満期前の手形金請求を為替手形金請求の場合に準じて請求し得るものと解するのを相当とする。これを本件についてみると原告は別紙目録記載1ないし5の各手形については口頭弁論終結当時いずれも満期が経過しているが支払を得られず、しかも被告に対しその住所において昭和四三年二月一七日同目録記載の各手形を呈示して、昭和四二年一二月二五日(本訴提起の前日)以降満期までの公定割引率による金員を控除した同目録記載の請求金員の支払を求めたが、その支払いを拒絶されたことは当事者間に争いがなく、かつ弁論の全趣旨によれば被告は本件各手形の振出後営業不振のため倒産し、事実上破産の状態に陥り、現在他に勤めて僅かに生活を維持する状況であることが認められるのである。したがってこのような場合は前記条件が存するものとして支払拒絶についての公正証書による証明を得るまでもなく、前記公定割引率の金員を控除した別紙目録記載の請求金員についての満期前の支払請求は正当であるというべきである。

次に遅延損害金の請求について考えるに裁判上手形金の支払いを請求する場合は、手形の呈示がなくとも訴状の送達により債務者を遅滞に付する効力が生ずることは判例(最高裁・昭和三〇・二・一判決参照)とするところであり、右は満期後の請求の場合であるが、満期前の現在の給付を求める場合には支払場所の呈示および呈示期間も無意味なことであり、かつ手形債務者の所在不明による呈示不能等のあることを思うと満期後の請求の場合と異別に取扱わなければならない理由はないと考えるので訴状送達に付遅滞の効力を認めるのを相当とする。

なお満期前の手形金の請求の場合には手形の所持人が勝訴の裁判を得た後当該手形を第三者に裏書譲渡し、手形債務者が右裁判による債権者と第三者の双方から当該手形金の二重支払いを強要される結果の生ずる場合があり得ることを考えると、満期前の手形請求の認容判決においては債務者の抗弁の有無にかかわらず少なくも金員の満期未到来の手形金の支払いを求める場合は当該手形の呈示を要する旨を主文に掲記するを相当と考える。

以上被告は原告の主張事実を全部認めて争わないところであり、かつ前記説明のとおり満期前の約束手形金の請求も本件の場合は正当とすべきであるから、原告の本訴請求を認容して主文のとおり判決する(民訴法第八九条、第一九六条各適用)。

(裁判官 佐藤真)

<以下省略>

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